この日は民法の試験(行政法よりなんぼかマシだった)の後、次の科目つながりで『それでもボクはやってない』を観る。余計なサイドストーリーが一切排されていて、まどろっこしさのない観やすい映画だった。
劇場公開中にネット上で多くを書くわけにもいかないが、リアルにこだわったとのことで、法廷の描写は確かに正確。たぶん他の手続(逮捕〜起訴前勾留)の描写も正確なんだろう。そして描写の内容は、この国の刑事手続の暗部としてよく言われる通りのもの。逮捕・勾留された被疑者への劣悪な待遇、インチキ手口満載な取調べ(しかも公判ではシラを切り放題)、挙証責任が丸ごと転換されているとしか思えない公判の審理、等々。
そうすると、「実際の警察はあんなテレビドラマみたいなんじゃなくて、ちゃんとやってます」と講義中おそらく4、5回は言ったウチらの刑事訴訟法の教授と、どっちを信じたらいいんだろう、ということになる。まあ自分なら少なくとも現時点では周防正行監督の方を信じるし、普通そうなっちゃうだろう。先生には悪いけれど。
いわゆる冤罪事件の真相いかんに関係なく、日本の刑事手続には、素人の目から見ていぶかしく思えるところが多々ある。別にテレビドラマの話などしなくても、新聞で普通に読める記事や判決要旨から十分不審さが感じられるわけだ。学校には、修了するまでのあと2年(予定)で、その辺からくる不信に対しせめて“合理的な疑いを差し挟む”位のことはしてもらわないと困る。
まあ今までだったら「その筋の人がわあわあ文句言ってるだけ」と切り捨てておけば済んでいた。しかし周防監督のような人がこういう映画を作ってきっちりヒットさせれば、刑事手続を運営する側が「実態がこの映画の通りでないこと」の挙証責任を社会的に負ったと言っていいと思うし、そうなればいいと思う。